相変わらずで ごめんあそばせvv
         〜789女子高生シリーズ
 


     



某有名女学園に通う聖なるヲトメらの中でも
特に際立っている存在にして、
令嬢たちから“三華様”なぞと呼ばれ、慕われておいでの、
三人娘 これありて。
確かに、その風貌やお育ち、人性など、
それは抜きん出て優れてもおり、
人気があっての注目が集まるのも もっともな、
愛らしくも美々しく、
時に見せる毅然としたお顔もこれまた凛々しい、
そりゃあ素晴らしい令嬢たちであるのだが。

 でもでも その実

 行動力がおありというか、
 義を見てせざるは勇なきなりという、
 特別なスイッチででもあるものか

こやつぅと思った不遜の輩を成敗にと、
お洋服の袖口に常に装備の特殊警棒(スライド式)を、
しゃきんと振り抜いてのあっと言う間に駆け出す韋駄天さんがいたり。
そんなお友達を制すのかと思いきや、
ご自身もまた、物干し竿級のポールやホウキの柄を探して来ての、
やはり途轍もないダッシュで追随しちゃう、鬼百合さんがいたり。
そんな二人とは微妙に体力の級が劣るのでと、
そのハンデを埋めるもの、
例えば…触れれば何万ボルトもの静電気が一気にほとばしりますよという、
そりゃあおっかない仕掛けのついた装備とか、
はたまた、周囲のコンピューター制御になってる何やかや、
手元のスマホでコントロール出来るようにクラックしちゃったりという、
どの辺が“非力”かよく判らない、工学界の熾天使が降臨していたりして。

 “神憑りには違いないが…。”
 “そんな喩えをしていて、罰が当たらぬか?”(あっはっは・笑)

そんな破天荒な彼女ら見守る大人のうちのお二人が、
たまたま至近に居合わせておいいでで。
実は深刻な事態の予兆を危ぶんでのこと、
穏やかならざる雲行きありと、眉を顰めていなさるとも知らないで。

 「あ、ここって綺麗っ!」
 「〜〜〜vv/////」
 「え? どこどこ、何処ですか?」
 「えっと、Y県の〜。」

どんだけ逃避したいものか、
実力テストの後に中間テストが控えており、
そのまた後には期末考査があるというにも関わらず。
いつしか夏休みの予定の話へ、なだれ込んでたお嬢様がただったりし。

 『今年は どこ行きますか?』
 『涼しい湖畔とかどうですか?』
 『久蔵殿の箱根の別邸は、本当に素敵でしたものね。』
 『♪♪』
 『ああでも、勿論のこと
  またまたお邪魔しては何にもなりませんが。』
 『??』
 『だってそれじゃあ、
  久蔵殿だけ新鮮味がない身となってしまう。』
 『そうそう。』

片山さんチのお茶の間の卓袱台の上。
地理のお勉強にと開いたはずの地図帳で、どこが良いかと話していたが、
これじゃあ細かい情報が足りないと、
しまいにゃ平八がお茶の間用のノートパソコンを取り出す始末で、
あんたら お勉強はどうしただ。(苦笑)
高原の湖畔や、お花畑や、
いっそ、パースの練習が出来そうな、
北海道の地平線を見に行こうかなんて話まで出たところで、

 「ああ、でも。
  夏休みといや、インターハイがまずはかぶりますよね。」

そこがネックだなぁと、七郎次が吐息をつけば、
平八や久蔵も“あ・そっか”と遅ればせながら思い出し、

 「今年の勝ち進みっぷりも順当ですものね、シチさん。」
 「……vv(頷)」

日頃は優しい慈愛の白百合。
だがだが、防具を装着し、竹刀を手にすれば、
あっと言う間に剣道部の鬼百合へ変貌する、元“鬼の副官”さんだったりし。

 「……前から訊きたかったんですが、
  そのキャッチフレーズって、どこから仕入れましたかヘイさん。」

だって、こちらのお二方とは“前世”でも戦後知り合った間柄。
確かに“鬼の副官”という異名に覚えはあるけれど、
あの大戦中につけられたその仇名を、何でまた、
こちらの二人が知っているのかが、
理屈に合わんと不思議でしょうがなかったらしく。
まさかに勘兵衛様がそんな話を振るはずないし…と、
初めて彼女らへ直接訊いてみたところ。
あれ?と まずはお顔を見合わせた平八と久蔵だったが、

 「佐伯さんが言ってましたよ?」
 「結婚屋も。」

それぞれが懇意にしている、
七郎次の前世仲間のお名前が いやにけろりと飛び出して。

 「あんの お人達は〜〜〜っ

普段は微妙に敵味方な立場同士なくせして、
妙なところでばかり息を合わせてどうしますか…とのお怒りからだろ。
七郎次がきれいな白い手でぐうを握ったその拍子、
ちょうど手にしていた プラスチック製のシャープペンシルが、
ぴししと軋んだそのまま めきょっと曲がったのは…もはやお約束。(笑)

 「…剣道って握力も要りますものね。」
 「………。(頷、頷)」

 「ややこしいフォローは要りませんたら。//////」

幸い怪我はなかったらしい、寄り道の寄り道はともかくとして。
白百合さんが剣道で出場予定の、高校総体へとお話を戻せば、

 「そうですね、
  このまま順当に行けば、またぞろ八月の頭くらいに本大会ですね。」

 今年ってどこでしたっけ。
 他はどの部が有力?
 確か、弓道部と新体操部の二年が…と、

そこに表でもあるものか、
宙を見やりつつ列挙しかかった七郎次が、だが、
あっと口元へ指先を当て、

 「そうそう、そう言えば。ヘイさんに訊いときたかったことが。」
 「はい?」

ここだけはさすがのお嬢様、きちんと正座したままの白百合さん。
幼いころから父上のモデルもこなしの、
母上の師事の下、お茶やお華も修めておいでという身ゆえ、
このまま何時間でも平気ですよと豪語しちゃえる剛の者だったりし。
ちなみに、バレリーナな紅ばらさんは、
お膝が出るのと妙な筋肉が伸びるような気がするからと、
正座はあんまり得意じゃないが。
その代わり、女の子座りで何時間でも平気なのだそうで。
一人、アメリカ娘のひなげしさんだけが、
今のように普段着に着替えての、スカート姿でない折なんぞは、
ついつい胡座かいちゃうこともあるそうで。
まま、ゴロさん曰く、
大人の真似する子供のようで、何とも可愛らしいそうですがvv
……って、
いやいやいや、それはともかくとして。(まったくだ)

 「あのねあのね、此処だけの話なんだけど。」

正座したまま ちょこっと立ち上がり掛かっての、
身を乗り出した七郎次だったのは、
あまり大声では言えぬと耳打ちしたかったからでもあるようで。
目配せまでする彼女だったのへ釣られるようにして、
久蔵も平八も卓袱台の真ん中へと身を乗り出し、
ふむふむと耳をそばだてたれば、

 「運動部の部室が固まってるクラブハウスB棟で、
  妙な噂が立ってるの。」

掠れそうなお声での一言に、
まずは…お茶の間の空気がシンと静まり返り。

 「いわく、窃盗未遂の気配って話。」
 「何ですか、その“未遂”っておまけは。」

いつも曖昧なことは言わぬ七郎次が、珍しくも妙な言い回しなのへ。
平八が何だそりゃと聞き返し、
久蔵も依然として意味が掴めぬか 小首を傾げて見せれば、

 「だから。確証がないから“未遂”なの。」

ますますのこと、珍妙な言い方をする彼女であり。
だからと、その先を咬み砕いての言うことにゃ、

 アタシらや柔道部、合気道部は
 道場のそばの長屋になってる部屋を使ってるけど。
 それとは別、A棟とB棟を使ってる運動部のうちの、

 「バレー部の子たちがね、
  何とはなしのことなんだけど、
  部室とかロッカーの雰囲気が時々違うって言ってるって。」

思えば、あれほどドカバキしている彼女らだけれど
正式に運動部員なのは七郎次だけ。
なので、
どちらかといや情報には通じているはずな平八も
そんな噂話なぞ、まったく気づかなかったネタであるようで。

 「…部室の雰囲気が?」

確認するよに聞き返せば、
今日は結わずに降ろしていた金の直毛を
さらりと揺らして頷いた白百合さん、

 「実際に何か失くなったって訳じゃなし、
  逆に、怪しいものが置かれてるってこともなし。
  なので 具体的にどうと指摘は出来ないのだけれど。
  微妙な違和感のようなものを感じて、気になってしょうがないと。」

勿論のこと、それぞれの持ち物も異状は無し。
ロッカーの位置も 窓の開けたての勝手も、
照明の点灯のタイミングも 壁のホワイトボードの角度も。
棚に仕舞われた試合用のユニフォームや、
チーム分けしての練習で背番号に使うメッシュのビブスも。
カーテンのちょっと色あせたところなんかも、特に違っちゃないのだけれど。

 「なぁ〜んか しっくり来ないって、
  2年の主将さんが言ってるらしくって。
  それを聞いた他の子までもが、
  そう言えば…って気になることを並べ立て始めての、
  部室を怖がってるそうなの。」

 ……まさかまさか霊感が強い人にだけ見えるものとか?

 そっちへ気味悪がってる子もいるけど、
 言い出しっぺの子はそういうんじゃないと思うよ?
 代表者会議でよく顔を合わせるけど……、

 「…って。ヘイさん、そういうの苦手?」

先程、七郎次に抱き着いた久蔵よろしく、
今度は平八が、涙目で久蔵へぎゅうとしがみついていたりして。
七郎次からの指摘へハッとしてから、
続いて 間近から見返っている久蔵に気がついて。
いやあの・そのその/////と、
赤くなりつつ どぎまぎして見せる米っ子さまへ、

 「………♪」
 「そうですね、久蔵殿。ヘイさんたら可愛いですよねvv」

 「〜〜〜ありがとございますvv//////」

何だか今回は脱線が多いですが、どかご容赦を。(こら)
そちらは制服姿のままの金髪娘二人から、
オカルト怖いという態度を、
“か〜わいいvv”と把握されちゃった ひなげしさん。
んんんっという咳払いで“仕切り直し”としての、さて。

 「何とはなく、ですか。」
 「そう。肌合いというか、印象というかが、」
 「…?」
 「言わば女の勘というやつでしょうかね?」

おいおいと、
ちょっと体が傾きかけた人が居たかも知れぬが、
馬鹿にしたもんじゃないですよ? 勘。
数値とか確たる証拠ではないけれどという手合いの、
微々たる違和感となると、
むしろ卓越した感知能力だからこそ拾えたものかも知れず。

 “林田の、数式への絶対感覚のようなもの。”

そうそう、紅ばらさん おサスガvv(おいおい)
場外の皆様はともかく、
七郎次の持ち出した微妙なお話へ、
疑問や不審なぞ、まるきり抱えてないらしいお嬢様がたはといや、

 「部室というのが気になりますよね。」
 「うん。」

さっきまでは風光明媚なリゾート探しに開いていたパソコンへ、
それこそどうやって入手したのそれという、
極秘なはずの女学園の全体見取り図を呼び出している平八で。
指先で画面へ触れての拡大を何度か続け、
校舎の裏手に広がる各種グラウンドの、
それぞれの縁に居並ぶ格好になっている、
横に長い部室棟辺りを大きめに展開させたものの、

 「部室ってそういやぁ、
  私物が置いてあるにもかかわらず、隙だらけな場所ですよね。」

教室のように朝から放課後までのずっと、誰かが居る場所ではなし。
主任やコーチ以外の大人、
シスターや職員のかたがたが頻繁においでになる場所でなし。
原則 私物の置きっ放しは禁止とされているけれど、
練習着は洗濯の必要もあるだろが、
体育館用のシューズや、膝肘用のプロテクターなどは、
ついつい置きっ放しにしがちだろうし。
部活動中は、脱いだ制服がそれこそ無防備に放置されてもいるわけで。

 「侵入者は許しませんけれどもね、ええ。」

 「〜〜〜。」
 「ヘイさん、両目開眼は怖いって。」

さっきまでの怖がりなお顔はどこへやら。
生身相手だと勝手も判って平気ということか、
表情がどんどんと真摯なそれへ尖ってゆくひなげしさんなのへ。
怖いもの知らず筆頭の久蔵が、
逆のお隣りに座していた七郎次にぴたりとくっつき、
そのまま両腕で、ぎゅぎゅうと しがみついてしまったほど。
それだけ ひんやりした怖さを
鎧のようにまとってしまっておいでの彼女だったのであり。

 「しかも、そういう隙を狙おうってからには、
  私物がフリーになってて警戒も薄い、
  まだ明るいうちってことになりませんか?」

生徒本人への危害じゃないならいいとか思ってるような、
その代わりにと そこまでやらかさんという輩が相手なら、
誰が看過しても このワタクシが絶対許さぬということか。
隠密行動ながら、私設保安委員のひなげしさん、
キーボードを かちゃかちゃかちゃと、神業レベルの素早さで操作すると、
女学園のあちこちへ設置した防犯カメラの映像を、
数日前のものから溯ってのチェックに入る。
やはりやはり、
どこの鉄腕警備女子ですかという厳しいお顔になっているのへ、

 「…そういや日頃はどうしているの? この映像。」

おっかないながらも好奇心は涌くものか。
被害が出てから浚っているのかと七郎次が問えば、

 「いいえ。
  時間帯別に別々のプログラムが働いて、
  挙動不審な何物かが近づけば注意を促すアラームが
  わたしの携帯へ届くようになってます。」

異様な動作を割り出すプログラムというのは、
実際に開発中だそうで。
エレベーター内での不審な動きとか、
コンビニ店内での不穏当な動作をチェックし、
雛型に合うよな怪しい動きをした人だと感知されると、
そこからの行動を監視され記録され、
警報が流れたり当局への通報も已無しと運ばれたりするそうで。

 「夜中の場合は、最寄りの交番の電話を鳴らすようにしてありますし。」

恐らくは勝手な対処なのだろうが、
警察関係の厳重なシステムへちゃっかり操作の手を絡ます手筈の、
見事さというか恐ろしさというか…。

 「頼もしいです、ヘイさん。」
 「……。(頷っ)」
 「いやはや、それほどでも。」

先程 怖がったのへの面目躍如…っていうんじゃあないけれど、
頼りになると言われて嬉しい辺りは、
これもまた前世の経験値、侍という名の軍人だった名残りというものか。
それほどでもと謙遜しつつ、
ちょっぴり鼻高々という笑顔になりかかった平八じゃあったものの、

 「だから、お主らが動き出すんじゃないと。」

いきなり割り込んだ お声ありての、その挙句、

 「えっ?」
 「……っ!」
 「ひゃあ☆」

どっひゃーっと飛び上がったお嬢さんたちのうち、
約1名だけは
そのままポーッと頬を赤らめたのもお約束です、はい。





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  *はてさて、どうなることなやら。
   外からの侵入した形跡が感知されないほどの
   結婚屋さんレベルの凄腕が相手か。
   それとも…ヘイさんが尻込みしまくる
   妖しい輩がお相手というお初のVer.か。(こらこら)
   続きはちょこっとお待ちあれ。


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